バイオ実習で手指消毒液をつくっています 工業化学科・工業化学同好会
2023年2月9日 14時27分ちょうど3年前、コロナが日本にも上陸し、春には突然の休校、マスクの不足、リモートによる授業再開など学校現場でも大変な状況となり、それらへの対応が急務となりました。エタノールがエンベロープ型のコロナウィルスを撃退することから、全国的にアルコールの需要が増え、マスクとともにアルコール消毒液まで入手困難となりつつありました。工業化学科でも実習の授業で使用するエタノールの価格が上昇し困っていました。
3年生のバイオ実習で、ブドウ糖溶液をイースト菌を使って発酵させ、エタノールを製造する実験を行っていますが、学習が目的のため、たくさん製造することを全く考えていませんでした。学校で使用する手指消毒液を工業化学科で大量に製造することができないか、あちこちから相談を持ち掛けられました。私たちは、より多く、よりエネルギーを少なく製造する、効率の良い方法を研究することになりました。
3年生の実習でアルコール消毒液完成 生徒が描いたアマビエイラスト
それから、手指消毒液を製造する目的も相まって、バイオ実習も充実したものになりました。しかし、学校は試験製造施設として許可を受けており、酒税法の関係上、手指消毒液としてエタノールを使用廃棄できるのは製造所内に限られ、校外へ持ち出すこともできません。また、年間製造できるエタノールの量も限定されていて、酒造メーカーのようにたくさん製造することも認められていません。そこで、本校工業化学同好会では、ブドウ糖からイースト菌を使ってエタノールを製造する際、どのようにすれば環境負荷を下げることができるか研究を行うことになり、現在進行形です。
課題1 イースト菌は生き物、元気なものをたくさん培養させることができるか。
たった1日でこんなにも増える。世代時間は7時間ぐらい。
小型のジャー・ファーメンターにブドウ糖と酵母エキスとペプトンをいれて液体培地で3日ほど培養します。イーストは生き物なので人間と同様、エネルギー源と栄養分と酸素が必要です。栄養分が足りないと減数分裂を起こしてしまいます。
取り出したら試験管に分け、遠心分離器にかけて分離します。顕微鏡で見たら、いっぱい増えています。
課題2アルコール発酵過程において、イースト菌にどこまで頑張ってもらえるか、繰り返し使えるか。
イーストをビーズ状の固定化酵母にします。(左) ブドウ糖溶液と固定化酵母を梅酒瓶に入れて、約5日間アルコール発酵を繰り返し行い、イースト菌が何回仕事をしてくれるか、いろいろ条件を変えて調べてみました。最大7回頑張ってくれました。(中) 記録は大切!(右)
イーストの固定化酵母は真空冷凍乾燥(フリーズドライ)して長期保存できる。イーストは冷凍しても、真空にしても大丈夫。
課題3 どのような反応装置をつくれば省エネルギーで製造できるか。夏の暑さはちょうどいい!
実習の時間はこのジャンボなジャー・ファーメンターで、自動温度制御なので電気代と水道代もかかる。(左)
夏は百均のウォータータンクに入れるだけ。これなら電気代タダ。(中)
発酵で発生する二酸化炭素でパンパン。夏の猛暑が嬉しい!(右)
パイプに固定化酵母を詰め、ブドウ糖溶液を滴下式にしてみました。でも流量調整が難しい、ここが課題。また、秋冬になって気温が下がってしまいました。どうするの?(左)
現在、2年前に真空冷凍乾燥させておいた固定化酵母を使って、ペットボトル型ジャー・ファーメンター?で湯浴で試しています。(中)
アルコールが増えればブドウ糖度は下がる。毎日糖度を測定するのは楽しみ。(右)
蒸留して適切な濃度75%程度まで濃縮します。(左)
不可飲処置(お酒として飲めないようにする)をして、手指消毒液として使用廃棄します。(中)
できた消毒液は塩化ベンザルコニウム・グリセリン入りです。冬は手にやさしい尿素入りも登場。(右)
自動制御の反応装置とボイラーを使っての蒸留装置だけでなく、手作りの器具を考え、実験をしながら探求しています。SDGsが叫ばれ、バイオ燃料やSAF燃料が注目される中、私たちも石油に替わる資源の在り方を考察し、さらに生物学だけでなく、化学工学の知識や技能を学んで取り組んでいこうと思います。